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こぼれ話
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「 いま欲しいもの? う~ん、ダイヤモンドヤスリかな。」
根付師の必需品、それは根付を彫る道具だが、これがまた、ただの道具でないから少々厄介とくる。
なぜならば自分で作らなければならないからだ。
象牙や鹿角、黄楊や黒檀などの硬い素材を彫るための「左刃(ひだりば)」は、特殊な彫刻刀なので、自分で鋼材を切って、焼いて、叩いてトンテンカンと、まるで鍛冶屋である。
師匠に道具作りを教えていただいた当初は悪戦苦闘の作業だったが、欲しい時に欲しい形の道具をいざ自分で作れるようになると、こんなに便利なことはなく、しかもこれが何とも楽しい・・・。
この道具作りに欠かせない必須アイテムが砥石とヤスリ。
ヤスリと一口に言ってもいろいろあるのだが、焼き入れをした硬い鋼材を削るには普通の金ヤスリでは歯が立たない。
そこで登場するのが 『 ダイヤモンドヤスリ 』 。
人口ダイヤモンドの粉末が塗布してあるヤスリの名称だが、これがなんとも優れもので一度使ったら手離せない。
しかも使うほどに色々な大きさや形のものが欲しくなってくる。もちろん消耗品でもあるので切れ味が落ちてくると買い換えるのだが、だんだんと高品質のものが欲しくなってきてしまう・・・。
“ ダイヤモンドの指輪 ” より、 「ダイヤモンドのヤスリ 」 が欲しい…○十○歳 今日この頃。。。
( ある女流根付師のひとり言より )
≪ダイヤモンドヤスリたち・・・≫
≪左刃をダイヤモンドで整える≫
≪左刃を砥石で研ぐ≫
※左刃の製作工程は後日あらためて。
≪数ある左刃の中から、使用頻度の高いメンバー≫
◆次回は・・・根付?
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幹周り170センチ以上はあろうイチョウの大木が庭に立っている。
乳(にゅう)と呼ばれる鍾乳石のようなおっぱいのある木だがギンナンは実らない。
ある早朝、その太い幹の中腹にひらひらとした白い小さい何かが貼りついているのに気が付いた。
近づいてみるとそれは脱皮したての半分透きとおった美しい虫の姿であった。
一瞬、蝉の脱皮かとも思ったが、よくみると蝉ではない。
触角は細く長く、誠に品の良い三角形の小顔、羽はまだ羽化直前で伸びきっていないため、全体の大きさと形はまだよくわからないが、かなり大きな羽を持つ虫と推測された。
その初々しい姿からは、子供の頃読んだイギリスの童話に登場する妖精 『 フェアリー』 のような清楚な雰囲気が漂ってくる。果たしてどのような虫なのだろうか。
このような羽化の様子は今まで見たことがない。
「もしかすると新種の虫発見!」
そんな妄想に駆られ、いつの間にかその白い半透明の妖精をビニール袋にそっと移し、ドキドキしながら家の中に入れてしまった。
美しい姿へと変身中の“レディー”の姿をあまりジロジロ見るのは失礼かと思い、薄暗がりの玄関の棚の上にそっとその袋を置き、期待に胸を躍らせながら別室で待つこと1時間。
純白のウエディングドレスに身を包んだ花嫁に対面する新郎のように、ドギマギしながら薄暗がりの棚の上のビニールをそっと覗き込むと、目に映るのは黒光りした扁平な物体がただ一つ、誰もが良く知る “ アイツ ” !であった。
一瞬何が起こったのか良く呑み込めないまま、とっさに確認してみたがビニール袋に穴はなし、どう考えてもあの白い妖精がこの黒い悪魔に変身した以外考えられなかった。
平素ならその姿を見かけ次第すぐにお決まりの行動に出るのだが、あまりの衝撃にとてもそのような事は出来ず、庭に帰ってもらうしかなかった。
もしもこの体色が黒ではなく爽やかな緑色だったならば、“ アイツ ” の運命もまた違っていただろうにと思われてならない。
その日以来、“ アイツ ” を見る眼が少しだけ変わったことは確かである。
◆さすがに “ アイツ ” をモデルにした根付はありませんので・・・
“ 妖精 ” の根付を!
“ 妖精 ” の根付を!
“ 蝶の精 ” をイメージした根付
DATA
『 胡蝶 ( こちょう )』 2004
黄楊(つげ)
象嵌あり (アワビ貝 )
ヤシャ染、べんがら、顔料
1.5 × 4.5 × 2.0 cm
~ 京都清宗根付館 所蔵 ~
『 胡蝶 ( こちょう )』 2004
黄楊(つげ)
象嵌あり (アワビ貝 )
ヤシャ染、べんがら、顔料
1.5 × 4.5 × 2.0 cm
~ 京都清宗根付館 所蔵 ~
◆モデルは庭にくる様々な “ 蝶 ” たちです。


※次回は・・・季節に合わせて
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ジローに出会ったのは残暑厳しい9月初旬のある日、一目惚れであった。
照りつけるアスファルトの上、二三歩彼の横を通り過ぎたがすぐに引き返し、まじまじとその容姿を見つめてしまった。
抜群のプロモーション、嫌みのない色艶、文句のつけようが無かった。
実はその時すでに彼には先約がいたのだが、強引にそのライバルを振り払い、彼を奪い取って足早に帰宅した。
実はその時すでに彼には先約がいたのだが、強引にそのライバルを振り払い、彼を奪い取って足早に帰宅した。
凛々しい瞳、逞しい胸、すらりとシャープな手足、見れば見るほどうっとりしてしまうが、やはり先約が開けた穴がどうにも気になる。
一歩先にジローに近づいていたライバルが、その穴にまだ潜んでいるように思えてならない。
注意深く慎重にジローを揺すってみると、案の定ポロポロポロと黒い影が転がり出てきた。
この小さな穴の中に、かくも必死にしがみついていたライバルの、その根性を讃えながら丁重に戸外へ追い出したが、今思えばこのライバルが穴から中身を綺麗に持ち去ってくれたおかげで数年たった現在もジローの状態はすこぶる良好なのかもしれない。
一歩先にジローに近づいていたライバルが、その穴にまだ潜んでいるように思えてならない。
注意深く慎重にジローを揺すってみると、案の定ポロポロポロと黒い影が転がり出てきた。
この小さな穴の中に、かくも必死にしがみついていたライバルの、その根性を讃えながら丁重に戸外へ追い出したが、今思えばこのライバルが穴から中身を綺麗に持ち去ってくれたおかげで数年たった現在もジローの状態はすこぶる良好なのかもしれない。
その後何度か仕事のモデルをお願いするうち、いつの間にか『ジロー』という名がついていた。
どうして『ジロー』なのかは解らないが「タロー」や「サブロー」ではしっくりこない。
やはり『ジロー』なのである。
どうして『ジロー』なのかは解らないが「タロー」や「サブロー」ではしっくりこない。
やはり『ジロー』なのである。
地下室の仕事場の棚の上、チョコレートが入ってた丸い筒型の小さな透明ケースの中でジローは今日も出番を待っている。
●体長 五十八ミリ
●昆虫 カメムシ目(半翅目) ヨコバイ亜目(同翅亜目) セミ科
●学名 Graptopsaltria nigrofuscata
●職業 モデル
≪「ジロー」がモデルを務めた作品≫
吉田兼好の「徒然草」の冒頭
“ つれづれなるままに ひぐらしすずりにむかひて
こころにうかぶよしなしごとを そこはかとなくかきつくれば・・・”
の「ひぐらし」を→蝉の「蜩(ひぐらし)」にかけて、
兼好法師ならぬ「蝉」が文机の前に座り、
筆を片手に何かを書きつけようとしている様子を根付にしました。
“ つれづれなるままに ひぐらしすずりにむかひて
こころにうかぶよしなしごとを そこはかとなくかきつくれば・・・”
の「ひぐらし」を→蝉の「蜩(ひぐらし)」にかけて、
兼好法師ならぬ「蝉」が文机の前に座り、
筆を片手に何かを書きつけようとしている様子を根付にしました。
机上には、巻紙と茄子形の文鎮に桃形の水滴、そして硯と墨の文房四宝等が。
机の下には蝉が座っている円座や、積み重なる書物、そして巻物。
円座の中央の穴が“紐通し穴”です。
蝉はその特徴を生かしつつデフォルメしながら擬人化しています。
気が付いてみると、『ジロー』をモデルにした作品が多いのです・・・。
◆ 次回も おそらく 『ジロー』モデルの作品?